「動画配信」は、ネットフリックスやアマゾンプライムビデオのような映画やドラマといった作品を配信するものと、TikTokのようなショート動画アプリに大きく分けられます。中国では前者の「長視頻」、つまりロング動画と呼び、百度(baidu)子会社の「愛奇芸(iQIYI)」や、テンセントの「騰訊視頻」、アリババ参加の「優酷(youku)」などがあります(このあたりのロング動画サービスは、日本の映像コンテンツホルダー権利部門の方なら、まず知っていると思います)。後者は、字節(バイトダンス、TikTok)や快手が大手。
映画やドラマ、アニメといった映像作品の一部をショート動画にアップロード、という著作権侵害状況についてはイメージがつくかと思いますが、このように、中国には国産の動画配信サービスやSNSが大量にあるのに加え、近年は「著作権保護」に中国政府が本気を出しているため、著作権侵害について日本より厳しくバシバシ取り締まられており、民事訴訟も増加しています。
ちなみに、「中国の裁判なんて信用できるの?」と感じるかもしれませんが、外国企業が中国中央電視台(CCTV)に勝った裁判例もありますし、かなり真面目にやっているものと思われます。
そんな中国での映像作品、ショート動画を巡るバトルについて、「界面新聞」の記事をもとに紹介します。
コンテンツホルダーの怒り
「ショート動画に反対しているわけではない、ショート動画による著作権侵害に反対しているのだ」とは、中国全国政治協商会議委員(共産党以外の政党や業界団体の代表者により組織。中国の制度上、政治協商会議で広く意見を募り、中国共産党全国大会で方針を決定し、全国人民代表大会で国政に反映、という順序になっています。ちなみに、シャオミの雷軍も全国政治協商会議の委員)、北京電視芸術家協会副主席、映画監督劉家成の言。
劉家成は、ショート動画による著作権侵害が、創作者の創作破壊体系を破壊していると、厳しく指摘しました。劉家成の調査によると、ショート動画による権利侵害は既に一年を代表するレベルの大作にも影響が出ており、ショート動画プラットフォームの権利侵害行為への黙認と寛容な態度は、アクセス数と利益に深く関係しているとのこと。
今年に入り、ロング動画とショート動画の配信プラットフォーム間の著作権をめぐる問題は両者協調の余地がなくなり、訴訟案件が漸次増加しているようです。
裁判では数千万円から数億円の賠償命令
10月31日、北京愛奇芸科技有限公司と北京快手科技有限公司、北京達佳互联信息技術有限公司の間の、映像作品「老九門」に関する著作権(送信可能化権)侵害事件の判決が発表されました。判決では、快手に愛奇芸へ経済的損失と訴訟費用として、約218万(4400万円)の支払いを命じています。
その5日前、テンセントがバイトダンスを相手として、作品「雲南虫谷」について同じく著作権(送信可能化権)侵害で西安市中級人民法院に訴えた事件について一審判決が下され、判決では経済損失3200万元の賠償が命じられましたが、懲罰的賠償(著作権侵害根絶へ本気になった中国の著作権法上、経済的損失に加えて、同額までを「懲罰的賠償」として請求できることになっています)については認められませんでした。
この類の著作権関連訴訟において、原告は一般に愛奇芸、優酷(youku、アリババ系)、騰訊視頻、芒果TV(湖南広播電視台)といった「ロング動画」コンテンツの権利者であり、映画・ドラマやバラエティ番組の権利者。被告は、たいていバイトダンスと快手といった、ユーザーがアップロードするコンテンツを主としたショート動画プラットフォームだそうです。
昨年12月にも、北京愛奇芸が北京バイトダンスが「延禧攻略」の権利を侵害したとして北京市海淀区人民法院へ訴えた件について、経済損失と裁判費用あわせて200万元の賠償命令が出ています。
二次創作の権利関係複雑性などが課題に
中国法学会知的財産法研究会理事、西南政法大学民商法学院孫山准教授によると、ショート動画には自分のビジネスモデルがあるにしろ、いかなるビジネスモデルも他人の利益を損ねることを手段にしてはならず、ショート動画企業は公益の代弁者でもないのだから、公益の維持を旗印にすべきではない、ということ。
ショート動画のプラットフォーム上に存在する大量の権利侵害動画の存在も、業界から広く注目を集めています。
2021年4月、ショート動画プラットフォームと公式アカウントユーザーに対して、原作尊重、著作権保護、無許諾での映像作品カット編集等利用の禁止を求める、映画会社、動画サイトと映像作品協会等70社による共同声明がありました。
『2021年中国ショート動画著作権保護白書』によると、ショート動画の著作権に関する主なものは、二次創作動画の著作権問題が複雑であること、ショート動画の著作権保護ひいては権利確認システムが不完全であること、プラットフォームのフィルターシステムが標準化できていないこと、権利保護難度が高いことなど。
警察も介入しての「著作権侵害撲滅作戦」
デジタルコンテンツ分野でのこういった混乱は関連当局も強く重視しており、2022年、(以下、いずれも中央官庁)国家版権局、工業和信息化(工業情報化)部、公安(警察)部、国家互聯網信息弁公室の4部門が、インターネット著作権侵害撲滅を目的とした「剣網行動2022」プロジェクトを実施。
なかでも、無許諾もしくは許諾範囲を超えて他人の作品を公開したり、無許諾で視聴作品(「映画の著作物」)をカット、編集をしたショート動画の摘発については、全国で連続的に展開されている第18次インターネット著作権侵害撲滅プロジェクトに位置づけられています。
このほか、「剣網行動」では、プラットフォームの著作権管理強化、ショート動画、ライブ配信、ECサイトを法に則り調査し、プラットフォーマーの責任を過小評価した(総評で解説)著作権侵害行為を撲滅し、プラットフォーマーの責任を明らかにし、著作権侵害コンテンツと著作権侵害を反復するアカウントへの処置を速やかにし、権利者による管理保護の便に利するものとされています。
総評・解説
まず、インターネットプラットフォーム上の権利侵害主体についてですが、「ユーザーを相手にしたところで損害賠償金とれるのか?」という疑問があると思いますが、中国では米国のデジタルミレニアム著作権法に準拠し、プラットフォーマー(サイト運営側)は権利侵害の申立てに対して「可及的速やかに」投稿内容の削除等の対応をとる義務を負い、これに反すると賠償責任を負うとされており、これを「避風港」原則と呼びます。日本の判例でも概ね同様の処理がなされています(日本では国内判例法が強いので、中国のように米国法の原則をひいたりしませんが)。
ところが、「可及的速やかに」には解釈の余地があり、そもそも事実関係の確認からして、とくに二次創作では問題になるところで、ショート動画側のサイト運営者としては、できるだけ先延ばししたい、元となる作品の権利者としては「直ちに」、今すぐ消せと怒るところ。
さらに、中国では警察も含めた政府が積極的に「著作権侵害撲滅」に乗り出している点ですが、これについては私見ですが、中国は政府が作品の内容まで干渉する権限があるので、発表されているコンテンツについて、思想信条に関する部分だけではなく、他人の私権が侵害されていないか監督する「義務」があるとの考えが西側諸国より強いのであると思われます。
「中国といえば海賊版天国」という時代もありましたが、中国政府が「著作権侵害絶対殺すマン」になっている現状は、なかなか感慨深いものがありますね。