今回は、技適認証について少し考えてみました。
国内外の認証通過を定点観測している「blog of mobile」によると、Googleのウェアラブル端末Google Glassのひとつが、日本の技術適合認証を通過しました。今回通過したモデルは「Glass(Model:AVT-5 and XE-C)」となります。
この認証通過は、Googleが日本市場にGoogle Glassを投入することを示唆するものと言えるかもしれませんが、以前にもGoogleは製品を技適認証を通過させたものの日本で直接販売まではしなかったNexus Oneなどの例もあり、単純に開発者のために通過させているという可能性も考えられます。Googleが直接販売するための準備であって欲しいものです。
現在、Google Glassは産官学連携のプロジェクト「山陰・山陽スマート観光プロジェクト推進協議会」で、SoftBankが特別に3台の免許を取って運用されている状況。この実証実験にはわざわざ東京などから駆けつけた記者もいたそうですが、総務省の官僚が「(この3台以外のGoogle Glassは)全部不法無線局ですからね(笑)」「こんなに人が来るとは思わなかった」「Google Glassは客寄せパンダなのに」などと笑えない冗談をいくつも発したことが、参加者の不評を買っていたようです。このあたりの総務省官僚の発言にまつわる詳しい話は、ケータイジャーナリストの石川温さんの有料メールマガジン(5月31日発行分)で読むことができます。
電波を発する無線機器は、技術適合認証が必要です。日本で認証を取っていない機器の通信することは、本来違法行為です。つまりGoogle Glassなどのアプリケーションを日本でいち早く開発しようという時、この技適の問題が立ちはだかることになります。Google Glassは未来を先取りしたデバイスであり、決して「客寄せパンダ」で済ませていいものではないでしょう。そう考えると、今回のGoogle Glassの技適認証は期待の持てる動きですが、後述の認証費用の問題があり、Googleのように動けるメーカーばかりではありません。
この技適が、スマートフォンにおいて実際に適用されているかというと、適用されていません。摘発例はゼロだそうです。なぜならスマートフォンの電波は小さく、影響がほとんどないことから、取り締まる必要が無いためです。
電気街などでは中古白ロムのスマートフォンとともに、海外SIMフリー機が普通に売られています。売るだけなら違法ではありません。SIMカードを挿せば国内モデルと同じように使えるため、ユーザーからは人気があるのでしょう。最近では、中古白ロム屋が自社で作ったスマートフォンを、技適を通さずに販売している例もあります。また、大手のスマートフォンメーカーが海外版をイベントやショップなどで国内展示する場合がありますが、ああいったもののためにわざわざ技適を通す例はほとんどありません。せいぜいモバイルネットワークの機能がソフトウェア的に非表示にされている程度でしょう。
技適認証を取得する費用は数百万円といわれています。SIMフリーというまだまだ小さな市場のために、それをポンと支払えるようなメーカーは、ほとんどないのです。今それをやれているのはAppleやGoogleなど、体力があり、尚且つ携帯大手キャリアの機嫌を伺う必要のない大手メーカーだけでしょう。
このように、法律と実態・運用の間には、大きな乖離が生じています。現状では、たとえば外国人が持ち込んだ端末にSIMを挿して通信したり、Wi-Fi接続したら「違法無線局」になるというお恥ずかしい状況。2020年の東京五輪までに直さなければならない問題のはずですが、当の総務省もそこには目を瞑ってか、訪日客向けに全国共通のIDを発行し、無料でWi-Fiを開放する方針です。最近関西空港にSo-netのSIM自販機が登場したことも話題となりました。
総務省はSIMフリーを推進する立場です。携帯大手3社がその方針に非協力的であるため、MVNOを活性化させるという方針のはず。その立場に従うなら、技適認証を取得しづらい現在の環境はメーカーにとってSIMフリー機販売の参入障壁でしかありません。技適を無くせとは思いませんが、例えば技適認証にかかる費用を格安にするなどの措置が必要なのではないかと思います。
仮に技適の費用がほとんどかからなければ、各メーカーが参入しやすくなり、MVNOのサービスのユーザーも増えて盛り上がります。市場が盛り上がれば、技適認証を取得するメーカーの総数も増え、結果的に技適認証のために支払われるお金の総額も大きなものとなるでしょうし、SIMフリー推進という目論見も達成できます。総務省にとっても利益になるのではないでしょうか。
2020年の東京五輪を成功させるためにも、総務省はこの問題について、もっと真摯に考えて欲しいと感じます。