6月5日、参議院内閣委員会にて、自民党和田政宗議員が「新CASチップ問題」に関する追及を行いました。
そもそも「CAS」とは?おさらい
CAS(Conditional Access Systems)とは、限定受信機能のことです。テレビ放送の著作権保護と、有料放送加入者識別が可能です。
従来のB-CASカードを用いたARIB限定受信方式と、地上波放送に用いられているソフトウェア方式の地上RMP方式(ARIBコンテンツ保護方式)が存在しています。
2018年12月からは、4K8K放送も始まります。これに合わせた新方式のCASが、内蔵チップ型の「ACAS(エーキャス)」です。これに関する問題が、政治の場で追及されました。
和田議員の追及の要約
全文書き起こししましたが、かなり長くなってしまったので、先に和田議員追及の重要ポイントを要約しておきます。
- 4K8K衛星放送では、NHKの契約促進メッセージを表示するための「ACAS」のチップは、内蔵型となるが、この費用は消費者負担となる。
- 修理のためのコストも増加することになる。
- このチップを推進する新CAS協議会は、重要メンバーをNHKで固められており、利益誘導、利益相反ではないのか?
- 新CAS協議会の協議内容が公開されていない。
- 各電機メーカーからなるJEITAからの繰り返しの要望に対して、新CAS協議会はほぼ無視しており、メーカーは泣き寝入り状態。
- 国民への説明不足であり、コンセンサスが取れていないのでは。
和田議員の追及の全文書き起こし
和田政宗議員(以下和田):規制改革会議が総務省に質問を出しました、4K8Kテレビに内蔵される方向の新CASチップ、正式名称ACASチップについて訊いていきます。この主たる機能は、有料放送のスクランブル解除とBS衛星放送契約を促すメッセージを表示しまして、NHKのBS契約に誘導しようというものです。これは契約しない人には関係ない機能ですけども、新CASチップは内蔵型を想定しておりまして、新CASチップの費用はテレビなどの販売価格に上乗せされる見込みとのことです。
現在のB-CASカードは放送事業者とメーカーが負担し、消費者には無償貸与されていますけど、この新CASチップの費用は消費者の負担になるんでしょうか。
総務省奈良俊哉大臣官房審議官(以下奈良):お答えいたします。ACASは地上デジタル、BS、110度CSの既存放送に加え、今年12月に開始される新4K8K衛星放送に対応した、コンテンツ権利保護機能および視聴制御機能を併せ持ち、新4K8K衛星放送の視聴に不可欠なもので現在、一般社団法人新CAS協議会が開発しております。コンテンツ権利保護機能は、無料放送のスクランブル解除等に用いられ、視聴制御機能は、有料放送の加入者識別等に用いられるものです。
現在利用されているB-CASについても、その費用は、放送事業者やメーカーと、関係者が広く負担しており、ACASにおいても大きな変化はないと理解しております。B-CASおよびACASの費用の負担方法のあり方、それらのテレビ等への実装方法や価格などは、民民間※1での協議や、メーカーの商品企画の中で検討がなされていることから、総務省において個別具体的な価格等を把握することは困難であります。総務省としましては各メーカーと関係者において、消費者に多大な負担が生じないよう、適切に検討がなされるよう期待しているところでございます。
※1 字のごとく、民間の間だけで行われるということ。同様の語として「官民間」「官官間」もある。
和田:チップの値段の内訳がどういう分担になっているのかわからないということですけれども、容易にわかると私は思うんですね。それで申し述べたいのはですね、新CASチップは新CAS協議会において検討がなされているんですけども、新CAS協議会の代表理事はですね、NHKの坂本専務理事。事務局長と運営局長もNHKの関係者が務めています。新CAS協議会は社会的に影響の大きい枠組みについて決めるわけですけども、NHKのBS放送契約メッセージ表示機能を持つ新CAS導入の議論をするわけですから、これNHKへのともすると利益誘導に近いようなことになりまして、即ち協議会が利益相反※2を起こすことになるのではないか、という指摘もございます。
総務省に申し上げたいのは、国民への説明が不足しているのではないか、新CAS協議会に任せていたら大変になるのではないか、という懸念です。まさに今、国民も国会議員も、新CASチップが消費者負担になることについてほとんど知らないという状況です。
実は新CAS協議会に対してはテレビ等を製造する電機メーカー各社からなる電子情報技術産業協会(JEITA)が、何回も繰り返して新CASチップについて要望したところ、ほぼ梨の礫※3だということです。JEITAの関係者に訊きましたけれども、電機メーカーにとっては消費者負担となることの説明を押し付けられた感があるわけでございます。メーカーとしては内蔵型ですと新CASチップが壊れた時にテレビ全体を開けてみなくてはならないということで、メンテナンスの人員がかかりますし、消費者にとってもB-CASカードのように外付けですとここが故障したんだなとわかるんですけども、どこが故障したのか内蔵型だとわからないということで、サービスマンを呼んでテレビを開けてもらったらその分の費用の負担も生じるわけですよね。
ただメーカーにとっては4K8K放送は今年の12月1日に始まりますから、これ進んでいくしか無いというわけですからほぼ泣き寝入りに近い状態になっています。あるメーカーはですね、販売価格に上乗せになるのかどうか、制度上もまだ確定していないと、6ヶ月前ですけれども、ということで、やむなくですね、先月末に4K8Kテレビ発表したんですけれど、内蔵型の方も工場でもう進めていくと検討はしているそうなんですけども、外付けのUSB型、後付というもので、まずは発表したというところがございます。
新CAS協議会での協議内容はホームページを見ても情報開示がなされていないんですね。国民に負担を求めるのか、この辺りをしっかりと総務省も国民に問うように新CAS協議会に促さなければ、この方式を是認した総務省自体も責められる危険性があるんじゃないか、という風に思っています。新CAS協議会での情報公開がほとんどなされていないことについてどのように考え、今後どのように情報開示が、国民への説明に取り組むのか、総務省お願いします。
※2 ある行為が一方の利益、他方の利益になること。他人の利益を図る立場なのに自己の利益を図る行為。
※3 なしのつぶて。返事がない、音沙汰なしという意味。
奈良:A-CAS方式の仕組みや、現在のB-CAS方式の移行方法等の消費者への丁寧な説明について、昨年12月、総務省から新CAS協議会に対し要請を行い、今年1月には体制の強化や関係機関との連携を図り、周知に取り組むとの回答を受けております。総務省といたしましては、新CAS協議会の周知活動に対し、支援を行うとともに、今年12月より開始される新4K8K衛星放送の普及啓発活動の中で、新CASについても消費者に十分に情報が提供されるよう取り組んでまいります。
和田:答弁を聞いてまして、また昨日色々総務省ともやり取りしたんですが、総務省はその、もう関知をしないと、新CAS協議会は一般社団法人なので、民間であるという形なんですが、これは今、いわゆる総務省の方から説明ありましたけども、これ、国民負担になるわけですよ。今のままですと。これは本当に、国民がそれを知った時にですね、そんなこと聞いてないよという風になったらですね、これはまさに総務省に対しての批判が起きる危険性というのもあると思いますので、これはもう本当に真剣にやっていただかなくてはならないという風に思っています。もし国民がこの負担について、やっぱりそれは事業者が負担する、放送事業者が負担するべきということであればですね、私はやはりそっちに進んでいかなくてはならないのではないか、そういうことを思うわけであります。
最後に公正取引委員会に訊きます。この新CASチップですけれども、消費者に不要な品物の購入を強いる点で、不当な抱き合わせ販売に該当するおそれがあるという指摘もありますけども、これ独占禁止法に違反しないんでしょうか。
公正取引委員会事務総局経済取引局粕渕功取引部長:お答え申し上げます。個別の事案についてはお答えを差し控えさせていただきたいと思いますけれども、一般論として申し上げますと、独占禁止法におきましては、複数の商品または役務を組み合わせて販売すること、それ自体は直ちに違法になるとはございませんで、ただし事業者が相手方に対し、不当に商品または役務の供給にあわせて、他の商品または役務、これを自己または自己の指定する事業者から購入させることが認められた場合には、不公正な取引方法として、違法となるものでございます。
和田:これは民間のですね、様々な団体、たとえばですね、主婦連合会などからも様々な疑問とか要望とかそういったものが提出をされているというようなことも含めまして、また規制改革推進会議でも議論になりまして、総務省とのやり取りを聞きましたけれども、総務省側が今答弁のようにですね、基本的には関知しませんみたいなことになってるわけですけれども、私はこれ、国民にとってですね、負担が出るということについて、本当にコンセンサスが取れているのか、ということは疑問に思っております。5月17日に規制改革推進会議投資等ワーキンググループが総務省に対して質問状を出しておりますので、これに対してやはりしっかり明確な回答をしていただくということ、また私も様々なメーカーですとか国民の皆様にさらにお話を聞いてまいりますので、これについてしっかり総務省にも質問しながらですね、これ4K8Kという仕組みは非常に先進的な良い仕組みなので、それを推進していくという中でですね、そういう、そこは聞いてない、という風に国民の皆さまが思う形というのは、もし本当にそうなるのであれば、私はそれはどうなのかと思いますので、その辺りしっかりとまた今後も訊いていきたいという風に思います。以上で終わります。
こんな馬鹿げたことをやりたいのは、他ならぬNHK
そもそも無料放送をしている民放は、冒頭で触れた「ソフトウェア方式」のCASで十分です。それだけなら、メーカーがわざわざチップ製造業者からチップを購入して内蔵する必要もありません。チップ内蔵型を最も必要としているのは、加入者識別機能を元に、契約を促すメッセージを表示したいNHKに他なりません。
これを国民に負担させるというのは、どう考えても筋が通りません。もっと大きな反発があって然るべきです。NHKが新CAS協議会の重要ポストに関係者を送り込み、協議内容すら公開せずにACASを推し進めているのはそういうわけですね。
NHKは受信料値下げへの各方面からの要請をことごとく拒否しているにも関わらず、受信料制度を護持するための策を密かに推し進め、その費用を国民に負担させる、そんなことが許されていいのでしょうか?
NHKの予算案は国会承認の仕組みがあります。予算不承認すらも念頭に置いて、NHKのあり方とACAS問題について、もっと大々的に国民的議論をしなければならない段階に来ているのではないでしょうか。