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Web広告を代替する可能性を持つCoinhive
仮想通貨によるマイニングの収益は、広告に依存するWebサービスの世界の新たなマネタイズ手法として注目を集めています。広告の代わりにWebサイトにJavascriptコードを埋め込む形の「Coinhive(コインハイヴ)」が登場。ユニセフなどもこれに着目し、Coinhiveによる寄附を募るページを公開。新たな可能性が模索されていました。
We’re excited to launch The Hopepage. This innovative website allows you to easily donate some of your computer processing power to generate #cryptocurrency and fund life-saving aid for children in crisis. #UNICEF #ForEveryChild https://t.co/rPXCnTcahy
— UNICEF Australia (@unicefaustralia) 2018年4月29日
なぜ逮捕、広告との線引きが議論に
一方、日本ではこのCoinhiveを自サイトに設置した複数の人が「不正指令電磁的記録供用・保管」として家宅捜索・書類送検・逮捕される事例が続出。大きな問題となっています。
サイト閲覧時、一般的なWeb広告よりもCPUを消費するため「マルウェアではないか」とする見解もある一方、Coinhiveは設定からCPU使用量を小さく抑えることも可能です。最近は、閲覧を大きく阻害した上でCPU処理のみならず大きな通信量まで消費する動画広告も一部サイトで導入されていますが、これもマルウェアになるのでしょうか?今回のCoinhive事件の警察の対応はおかしいのではと、大きな議論を呼んでいます。
模索すらダメなのか?家宅捜索を受けた人が話題に
特にCoinhive設置で家宅捜索を受けた複数人のうち、デザイナーの男性が、ブログで経緯を公開しています。
あくまでWebから広告をなくしてUXを上げるためのテストとして、不自然にCPU処理も回さないよう配慮した上で試験的に実施。実質収益は0だったとのこと。家宅捜索や神奈川県警から受けた衝撃的な取り調べの内容も記され、PCデータを削除されたことについても書かれています。この方は罰金を否認、弁護士を立てて記者会見を開いており、今後裁判を戦う見通しです。
警察対応に疑問視
現時点で、Coinhive設置が犯罪であるかどうか疑わしく、意見も大きく別れています。このデザイナーの方のような実験や模索すら禁じてしまう社会には明るい発展は無いのではないか、という観点もあります。
何らかの規制は必要としても、社会の議論を経た上で、行政や立法によって規制すべき問題です。それを刑事事件化、しかも事前に注意喚起・警告した上でならまだしも、いきなり逮捕までするというのは、いかがなものでしょうか。
NHKが実名報道、さらに「遠隔操作」とまで
そうした状況下で行われたNHKの報道は、警察対応を問題視するどころか、Coinhive設置での逮捕者の実名を報じるもので、Web界隈に衝撃を与えました。(該当記事へのリンクは貼りません)
今回の一連のCoinhive事件に関するNHK報道で一番酷いのが、別記事のこの記述とタイトル。
このうち会社役員は、仮想通貨の動きを監視することで仮想通貨を得られるソフトを、自分が運営するアダルトサイトに組み込み、ほかの人がそのサイトを見ている間にそのパソコンを遠隔操作で無断で使って不正に利益を得ていたということです。
Javascriptを実行させることを「遠隔操作」と表現しているのが驚きです。5年前に起きた遠隔操作ウイルス事件を彷彿させ、悪質な印象を強烈に与える記事です。
今回の問題は、ブラウザー内で何を動かしたか、その不利益は、といったところが争点となっています。Javascriptを実行させるWebサイトが「遠隔操作」であり問題とするNHKの報道は的外れもいいところです。これが「遠隔操作」であるとすれば、Web上のあらゆる仕組みが「遠隔操作」ということになりかねません。さすがに捏造・誤報の域にあると言って差し支えないでしょう。
Coinhiveがパソコンを故障させる?
とにかくマイニングスクリプトが故障に繋がりかねないことを強調したいのか、NHKがテレビ放送でも流した内容も、同様の主旨で専門家の発言の一部分を切り取ったもので、Twitterでも話題となっていました。
この専門家だれ? そんなの当たり前だろ。何こんなこと言わせてんの?https://t.co/fsuDdGTvtq
「サイトにアクセスした瞬間からパソコンに負荷がかかっているのがわかります。」 pic.twitter.com/9JWUSwwjT7— Hiromitsu Takagi (@HiromitsuTakagi) 2018年6月14日
僕ですね!全部カットされてそこだけ採用されました! https://t.co/xmyrXkkFqf
— NAKATSURU You (@you0708) 2018年6月14日
NHK の取材を受けてマイニング自体の良し悪しは分かりません、それはさておき攻撃者が悪用して不正に設置してるの何とかしたいというような話をして、最終的にマイニング自体の良し悪しに関するコメントだけ採用されたようです。
なおデモして得たモネロは 0.000002 モネロでした。— NAKATSURU You (@you0708) 2018年6月14日
こちらでは犯罪者による悪用について少し触れていただけたようです。電力消費云々については僕は取材で逆の、いやこの程度の負荷気付かないし影響ないのではという感じの発言をしたんですけど別の方の意見ですかね。 / “ マイニング”摘発で議論呼ぶ|NHK 首都圏のニュース https://t.co/FqlNFAxxnO
— NAKATSURU You (@you0708) 2018年6月14日
「そうですね」と言った箇所が使われるなどで、部分的にカットされると真逆の答えになってしまうんですね・・・。
— HarunoUrara (@harunourara) 2018年6月14日
こちらの記事でも以下のような記述があります。
「鉱山から金を掘り出す」という地道な作業に似ていることから、この名前で呼ばれているということですが、マイニングには膨大な処理能力が必要でパソコンの動作が遅くなって劣化しやすくなったり、電気代が高くなったりするなどの影響があるということです。
他人のパソコンを使ってマイニングをさせようとする背景には、こうしたコストの負担を回避する狙いがあると見られます。
故障につながりかねない、というのも飛躍です。PCメーカーは、製品のCPUが100%稼働することも想定して製造しています。そしてCoinhiveはCPU処理の程度を設定可能であり、家宅捜索を受けたデザイナーの男性も閲覧に支障のない程度のCPU処理になるよう設定していました。何なら、ユーザーはブラウザのタブを閉じれば済む話です。
おそらくマイニングファームなどマイニング専用PCを24時間毎日常時連続稼働させることを想定した一般論を書いたのでしょうが、サイトから離脱すればすぐにCPU処理の止まる本事案には必ずしも当てはまらないものです。
また、「こうしたコストの負担を回避する狙いがある」もいまいちよくわからない記述です。
NHKは公共放送としての自覚を
一連の記事は、ITに疎い社会部記者が警察発表を唯々諾々と適当に垂れ流しているのだろうか、という内部事情は推察できるものの、それなら国営放送でいいだろうと思いますし、結果として捏造・誤報のオンパレードとなってしまっているのもいただけません。公共放送としての資質を疑われる事案ではないかと思います。
Coinhiveはマルウェアだと思いますか?
— すまほん!! (@sm_hn) 2018年6月16日