中国の「商標登録」問題といえば、昨年12月に無印良品が敗訴した事件が記憶に新しいと思います。ここから、「中国の司法がメチャクチャだから、日本企業が不当な扱いを受けた」という印象を受けた人が多いと思います。
実は、中国の大手スマホメーカー・小米も「MIKA米家」の商標をめぐって無名企業から訴えられ、このほど小米に1200万元の賠償を命じる一審判決が下されたと、1月16日、中国知識産権報が伝えました。
また、昨年小米は逆に別の無名企業を商標侵害で訴え、この種の裁判では史上最高額となる5000万元を勝ち取っています。新網網は「パチモノが正規版に勝った」と中国でも話題になったという「無印良品」事件の例も引き合いに出して解説しています。
小米と無印良品の敗北、この2つのニュースから、ちょっと「スマホ」そのものからは話が外れますが、中国の商標をめぐる実情について、見ていきたいと思います。
Xiaomi 商標紛争
VS MIKA米家
まず、小米が敗訴した事件について。
小米通訊技術有限公司、小米科技有限責任公司(以下「小米」)が許可を得ることなく杭州聯安安防工程有限公司(以下「聯安」)の商標である「MIKA米家」を使用したとして、聯安社が小米と中国最大のECサイト「京東」の運営会社を訴えた件で、杭州市中級人民法院は小米が聯安社の第10054096号「MIKA米家」登録商標を侵害したとの事実を認め、小米に対して聯安社の蒙った経済損失約1200万元の支払いを命じ、京東社は権利侵害を構成していないとする一審判決を下しました。
業界関係者によれば、この件は典型的な「後から商標を使用した者を、先に使用した者と誤解する」例だ、と指摘します。商標登録制度の本義とは、先に登録した商標権利者の権利を保護することにあり、商標権利者が正当に経営し、正常に商標を使用している限り、経営の結果と取得した知名度の如何にかかわらず、何人たりとその商標権を侵害することはできない、あとから大企業が知名度の優位を以て商標権者が自己と商標の対応関係を成立させることを阻んだり、不当に商標権者が商標を競争に利用する機会を損ねた場合、権利侵害を構成する可能性がある、と指摘します。
これは一般論として、「まあそうだよね」という感じですね。
なお、聯安社とは、2003年5月に設立し、中国国内で最も早くにインターネット警察通報システムを提供した会社の一つで、「MIKA米家」はインターネット通信設備、カメラ、ビデオカメラ等の商品に使用するものとして登録されていました。
聯安社は2016年、小米が「米家」の商標をネットワークカメラ、スマートカメラマウント、ドライブレコーダーなどの商品に次々と使用し、京東などで販売して、数億元の利益を得ていることを発見。聯安社は小米、京東社など7社を相手に杭州中級人民法院へ、権利侵害停止と経済賠償及び裁判費用あわせて7800万元の支払いを求める訴えを起こしていました。
小米は訴えに対し、聯安社は「MIKA米家」の商標権を有しているに過ぎず、「米家」には商標権がない、よって商標権侵害には当たらないと主張。これ、苦しいですね。
京東社は、ECサイトを運営しているだけであり、商品の販売には関わっておらず、連帯責任を負うべきではないと主張。
杭州中級人民法院の判断としては、「米家」と聯安社の「MIKA米家」商標は告示しており、小米が「米家」の表示で大量に宣伝及び使用していることで、一般に「米家」は小米との対応関係が形成されることから、聯安社の商品が小米のものと誤解され、「後から商標を使用した者を、先に使用した者と誤解する」ことになる、とされました。
また、聯安社が当該商標を登録したのは2012年、小米が「米家」ブランドをリリースしたのが2016年であり、本件は他人の商標を奪って訴訟した形にはならず、聯安社の商標登録は悪意のないものである、とされました。
賠償金額などについても、つらつらと説明がなされていますが、既に「なぜ、どのような商標侵害とされたのか」はわかったことですし、本筋ではないので端折ります。
要は、「聯安が折角登録した商標が、小米のせいで一般に小米のものだと誤解されていまったので、小米が悪い」ということですね。
無印良品 VS パクリ無印良品
VS 無印良品
さて、気になる無印良品の商標については、どのように論じられているのでしょうか。「アップル、無印良品のような一流国際ブランドも、当初商標登録を重視しなかったため、中国市場で失敗している」との書き出しで、次のように紹介しています。
2019年12月、18年にわたった「無印良品」の裁判が終結、北京市高級人民法院は無印良品の商標侵害案件について以下の最終判決を下しました。上海無印良品は棉田公司、北京無印良品に対する商標権侵害行為を直ちに停止し、中国ECサイト上のオンラインショップと中国大陸の実体店で声明を発表、権利侵害の影響を取り除き、あわせて経済賠償50万元及び裁判費用12.6万元を支払え。
「良品計画と上海無印良品こそ我々のよく知る『MUJI無印良品』の中国大陸運営会社と主体会社であり、この判決は、世間で『パチモノが正規版に勝った』と笑い話になった」と、中国でも「意外な判決」と受け止められたようですが、これは「過去の商標戦略のツケを払った形になった」と指摘します。
MUJI無印良品は2005年に中国へ正式に進出、上海で初出店しました。しかし、実は1999年、良品計画は「無印良品」の商標を申請していたといいます。しかし当時は11類しか申請しておらず、日用品、アパレル、家具、広告など、いくつかの商標分類にとどまり、数年後、商標のなかの数件は継続手続きをしていなかったため失効していたとのこと。
先に商標登録するまではよかったのに、商標分類は少ないわ、失効するわ、トホホですね。
さて、2001年4月、「無印良品」が商標登録された2年後、海南南華実業貿易公司が、24類の商品で「無印商品」の商標を取得。綿織物、おぼん、椅子カバー、タオル、タオルケット、バスタオル、掛け布団などの家庭用品が登録されたといいます。2004年、この商標は棉田公司、つまりこの訴訟の最初の原告側へ譲渡されています。
2015年、北京棉田聯合傘下の北京無印良品を、日本無印良品が24類の商品で「無印良品」の表示をしていることを理由に訴えました。結果、北京棉田の商標所属権を撤回させることができなかった上に、60万元以上の賠償を命じられることに。
パチモノ無印良品の店舗は、製品デザインから店内の内装まで、そっくり日本の無印良品のパクリだと、中国でも報道されていたといいます。
2001年の「無印良品」商標公示期間内に、日本のMUJI無印良品は異議申し立てをしたものの、2012年最高人民法院に却下されています。当時、MUJI無印良品の中国国内での知名度は低く、悪意をもって商標を奪った行為は構成しないとし、登録を取り消さないものと裁定されました。
当時中国国内で展開していない小売ブランドを、中国人が当然知っているものとするのは無理がある、という判断は、私は特に否定できないと思います。「上海によくあるコンビニの名前は?」と言っても日本人は「知らんがな」と言うでしょう。
ただし、北京棉田が日本MUJIの店舗をパクっている問題については別の問題で、新浪網は専門家の意見として、「今後店舗設計とイメージで双方が訴訟の持久戦をした場合、勝敗がどちらに帰するかわからない」としています。
なお、中国で昨年11月に新「商標法」が施行され、同法第四条第一項に、「使用を目的としない悪意による商標登録申請は、これを却下すべきものとする」と明確に規定されたとのこと。
法律にもとづき、ちゃんと申請して商標材料を整えてこそ、商標の「抜け道」をつかれることはなくなる、と記事は結ばれています。
小米の場合は大企業がうっかり他社の登録している商標を使用してしまったケース、無印良品は商標登録の不備と、ケースは異なりますが、「権利は自ら防衛する努力をしなければ、誰も守ってくれないし、だってその権利者はうちに決まってるじゃないか、では通らない」という、知的財産管理の鉄則を表していますね。