3月9日、SHARPはスマートフォン通信技術にかかわるWLAN特許侵害を理由とし、OPPO日本法人を相手取って東京地裁に訴えを起こしました。
これに対しOPPOは、不当な高価格に反対するとし、裁判で争う構え。実はこのようなやりとりは、年明けに始まっていました。1月にもSHARPは特許侵害を理由に、OPPOの5機種の販売差止めを求めて東京地裁に訴えています。SHARPの「挑戦」に対し、OPPOは1ヶ月後にSHARPへ対し、2つの訴訟により反撃。
特許データ会社IPLyticsの発表した最新の5G業界特許レポートによると、SHARPとOPPOは「勢力均衡」の状態にあることからも、表面上はSHARPとOPPOの間に「特許関連訴訟大戦」が勃発しているように見えます。
しかし、その背景には、「スマホブランド」と「スマホ代理生産」の二本立てで戦う台湾鴻海の「焦り」があるようです。中国「鋅財経」の論説をもとにお伝えします。
SHARP買収は「一石二鳥」の取引
鴻海がSHARPを買収した頃、主要業務で大きな問題が発生していました。2016年通期営業収入は1363.8億ドル、前年比2.81%の下落。これは同社が1991年に上場して以来初の営業収入減少であり、この主要原因はAppleにありました。
当時、Appleは鴻海の営業収入中、半分を占める最大の顧客であり、iPhoneスマホの出荷台数が鴻海の営業収入に直接反映されることに。
2016年末にIDCが発表したデータによると、iPhone出荷台数は2016年は3四半期連続で前年同期を下回りました。特に中国市場での落ち込みが顕著で、2016年代2四半期、iPhoneの出荷台数は860万台と前年同期比37.1%の大幅減少を記録。
これにより、鴻海にとってApple依存への対応が焦眉の急となり、SHARPはこのピンチを救う最高の「良薬」と見做されました。SHARPは日本スマホ市場で長年上位3位を維持しており、SHARPと鴻海の生産ラインを「結婚」させることが、最高の補強だと考えたわけです。
また、人件費や原材料などコストの上昇も、「スマホ代理生産」業者の鴻海にとって大きな圧力となっており、ここからも生産方式とサプライチェーンの転換が急がれていました。
SHARP買収後、優秀な液晶パネル技術を手に入れたことで、その下流にあるスマホ、スマートテレビやタブレットPCなどの端末で自己ブランド市場を発展させることができ、鴻海は「代理生産」のローエンドポジションから、グローバルハイエンド企業へ転換することに。
郭台銘からすると、SHARPの買収は「これだけの苦労にも見合うもの」という感触だったのではないか、と言います。ところが、郭台銘は「挑戦者」がこんなにも早く現れるとは予想していなかったと指摘します。
代理生産とスマホ日本市場でOPPOが台頭
2019年3月にIDCが発表した全世界スマホ生産工場ランキングでは、第一位がSamsung、第二位が鴻海となり、鴻海にとってSamsungは「とても超えられない山」になっていると言います。
その原因は、Samsungの財務報告から見て取れるそうです。SamsungはAppleの競争相手であると同時に、チップ、ディスプレイなど、半分以上のiPhone部品をAppleへ供給しており、「組み立て屋」に過ぎない鴻海とは、明らかに役割が異なります。
鴻海はSHARPを買収したことで、グローバルスマホ市場、特に日本市場へも進出することになりました。日本市場に集中している理由は、SHARPがもともと日本の有名ブランドであり、日本市場でのシェアも優勢であることだといいます。
Strategy Analyticsのデータによれば、2019年第2四半期の日本スマホ市場出荷台数は、Appleが37.1%で首位、SHARPは15.5%の第2位につけています。
スマホの代理生産と日本スマホ市場で鴻海は有利な位置を占め、更に傘下のSHARPが東芝のPC部門を買収し、産業チェーンの拡大を続けました。(『SHARPのDynabook』、なんだか「阪急阪神ホールディングス」的な落ち着かなさを感じましたね)
ところが、そんなSHARPに強力な挑戦者、OPPOが登場します。
OPPOは2018年1月に日本市場へ進出後、日本に開発拠点とオフライン運営部門を設置し、日本のキャリアとの提携を積極的に推し進め、日本市場へ適応していきました。
BCNによる日本の家電量販店とオンラインショップの実売台数データによれば、2019年12月の日本SIMフリースマホ販売台数は、SHARPは36.2%増加したものの、OPPOの98.1%増と比べれば、勢いの差は明らか。
日本市場でSHARPへ挑戦しているOPPOですが、同時に鴻海の「スマホ代理生産」の地位も脅かしているそうです。
本業である「スマホ代理生産」への挑戦
「スマホ代理生産」は主力のAppleからの発注が年々減少している上に、ノキアやSHARPの出荷台数も「なんとも言えない」ことから、世界第二のスマホ生産業者としての地位も安泰ではなくなっています。
後発のOPPOはもともと自社生産自社販売、スマホブランド業者であると同時に製造業者でもあり、2019年3月にIDCが発表したスマホ生産工場ランキングで、OPPOは第3位につけています。
実はOPPOによる挑戦は、2016年に始まっていたそうです。OPPOはインドでの工場建設を発表、研究開発とスマホ生産を開始。昨年にも第2工場へ投資しており、鴻海にとって大きな打撃となったといいます。
OPPOによる日本市場でのSHARPスマホ事業への挑戦が鴻海の「肉を切る」ものであるとすれば、スマホ代理生産での挑戦は「骨を断つ」もの。これこそが、鴻海傘下のSHARPがOPPOに対し次から次へと訴訟戦をしかける理由であり、不利な状態から能動的に出撃しているものだと指摘します。しかし、これは勝ち目のない「背水の陣」かもしれないとも言います。
鴻海の敵はOPPOだけではない
SHARPによる今年に入って2回のOPPOへの訴訟は、日本スマホ市場でのSHARPのシェアを維持し、OPPOを可能な限り抑え込むためと考えられるものの、SHARPの日本スマホ市場での脅威は華為や小米などもあり、日本スマホ市場でのシェアを奪っていっていると指摘。
華為はNTTドコモからP30 Pro、Mate20 Proを、ソフトバンクからはNovaシリーズなどの機種をリリース、2018年にはシェア第5位まで浮上。
小米は昨年12月に日本市場へ進出し、いまのところ具体的な数字は出ていないものの、小米は日本市場進出にあたり周到に準備を重ねていたと言います。日本市場はハイエンド志向が強いため、小米はハイエンドブランドとして進出することになったと指摘。
更に重要なことは、小米が鴻海にスマホ生産を依存しなくなることだとか。
昨年5G大会で、小米は「未来工場」を設立すると発表、小米のフラッグシップスマホを研究・開発するとしました。OPPOは2018年に「代理生産」を放棄しましたが、これに小米も続いたことになり、これはつまり鴻海が小米という「大口顧客」を失うことを意味します。
よって、鴻海がこの「背水の陣」で戦わなければならない相手は、OPPOばかりではなく、小米も加わることとなり、もしかすると敵は更に増えるかも知れないと言います。
総評
SHARPとOPPOの特許訴訟戦の裏にある、鴻海とOPPOの競業関係についてご紹介しました。スマホブランド同士の戦いだけでなく、鴻海の本業であるスマホ生産でも対立関係にあるようです。
それにしても、iPhoneの販売台数は右肩下がり、中国メーカーも自社生産へシフト、Samsungのように部品屋になる技術力もない、となると、鴻海は今後かなり苦しそうですね。