西ではアメリカ式「ポリコレ」が猛威を振るい、登場人物の男女や皮膚の色の構成比がどうだということになっているようですが、今や米国の向こうを張る超大国・中国でも「中国版ポリコレ」と呼びたくなる表現規制が飛び出しています。
一方で、知的財産権の保護という極めてまっとうな取り組みも、取り締まりを「めちゃくちゃ厳しくする」か「まったくほったらかし」かのデジタル思考と私の中で定評がある中国政府として、「そこまで細かく厳格に見るの?」という勢いで進めているところ。
いずれも、中国にコンテンツを出すなら遵守しないと公開が不可能なので、わりと大事なお話だと思います。
中国「新京報」の論評をもとに、お伝えします。
「中国ポリコレ」一覧表
12月15日夜、中国網絡視聴節目服務協会(インターネット視聴番組サービス協会、中国の「一級協会」というやつですが、認可法人とか独立行政法人のようなもんと思ってください。クソ長いので、本記事では以下「協会」とします)が「インターネット・ショート動画コンテンツ審査基準細則(2021)」を公表。
「細則」によると、ショート動画コンテンツの「題名」「名称」「コメント」「弾幕」「顔文字」等、その「言語」、「実演」、「字幕」、「画面」、「音楽」、「効果音」の中で、中国特色社会主義制度に危害を与えるもの、国家分裂、国家イメージを損なうもの、国家秘密を漏洩するもの、革命指導者と英雄烈士のイメージを損なうもの、社会の安寧秩序を破壊するもの等、21項目100種類の内容が出現しないよう要求。
「うっへぇ」って感じですが、なかでも、第92条と第93条の、ドラマ、映画の切り取り、改編についての部分が、業界の注目を集めているそうです。
第92条では、「国家が放映を許可していない映画、テレビドラマ、インターネットドラマの一部」、又は「輸入許可を得ていない各種境外視聴コンテンツ及びシーン」、「国家が明示的命令により禁止している視聴コンテンツ及びシーン」の使用を禁止。
そう、ここはかなり基礎の基礎ですが、中国では、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、表現物の一部または全部の発表を禁止する目的で、対象とされる表現物を一般的・網羅的に、発表前に審査した上、不適当と認めるものの発表を禁止する「検閲」が当然のようにあります。ここらへん、明治憲法だと思ってください。
なので、中国の映画は「映倫」マークの代わりに「国家版権局」マークと検閲許可番号が入ります(ちなみに、けっこうオシャレなデザイン)。
眼目は「ファスト映画」潰し
第93条では、権利者の許諾を得ていない映画、テレビドラマ、インターネットドラマ等各種視聴コンテンツ及びシーンの切り取り、改編を禁止。
あるアナリストによると、今回の「細則」の重点は、映画、ドラマ、バラエティの改変使用にあるといいます。多くのユーザーは、こういったショート動画を観て本編を見ず、こういった動画は動画プラットフォームの10%前後を占めるとのこと。
これ、早い話が、今年日本でも6月に逮捕者が出て話題になった「ファスト映画」をビシビシ取り締まるぞということですね。
インターネット業界アナリストの唐欣は、著作権問題がもし厳格に執行されたとしたら、ショート動画の二次創作作品は、壊滅的打撃を受けると指摘します。
協会はインターネット視聴コンテンツ分野で唯一の全国的業界団体ですが、公権力を行使する機関ではなく、強制力はありません。よって、この規定はスローガン的な意味にとどまりますが、政府の今後の態度を表したものだろうと言います。
切り取り、改変などは、確かに映像作品の興行収入といった従来型収入チャネルに深刻な影響を与えており、国が検閲許可を出していない作品に審査の抜け道を提供している事実があると、唐欣は見ています。
コンテンツ権利侵害の賠償金は誰が払うのか?
コンテンツ・ライセンスに詳しい法律関係者は、既存の映像コンテンツの権利を使用した映像創作に対して、司法上、合理的な使用と認められる範囲を参考には出来ないのか、創作者を十把一絡げに「撲殺」することは極力避けるべきだと主張しています。
また、ショート動画は映像作品にとって宣伝の効果もあるのだから、WEB動画の未来は、宣伝目的での協力と著作権使用料の分配という角度から、模索していくことも考えられると言います。
ショート動画について、一体どのように合理的かつ合法的で、効率的に規制をすることができるかは、学界でも議論の的になっているところ。
この部分はあまりにも専門的かつ面倒な話なので省きますが、プラットフォーマー、つまり動画配信サイトの責任については、権利侵害の申立があった場合に当該動画を削除すれば(米国デジタルミレニアム著作権法でいう「ノーティス・アンド・テイクダウン手続き」)足るとすべき、との説が有力のようです。
なんとなれば、プラットフォーマーに損害賠償責任まで負わせるとした場合、動画配信サイトはユーザーがアップロードする動画を事前審査することになると思われますが、全中国数億のユーザーが毎日アップロードする動画の量はものすごい数になるため、これらのすべてをプラットフォーマーが事前審査するとしたら、その必要な財力、人力、時間がえらいことになることは容易に想像でき、不合理だというものです。
まとめ
こういった規則が日本で報道される場合、オマケでついてくる「中華ポリコレ一覧」に目を奪われがちですが、大抵は「性器を写すな」レベルに昔から決まっていることが基本なので、けっこうどうでもよかったりします。
近年は、コンテンツ産業育成という国策から、クリエイターがちゃんと収益をあげられるように著作権侵害に厳しく臨む流れになっており、プラットフォーマーにも「厳しく審査しろ」とのお達しが、このように飛んできていますが、「著作権侵害がないかのついでにポリコレもみておけ」という感じですね。
著作権保護はもちろん重要ですが、記事中でも指摘されているように、あまりやりすぎると二次創作そのものが死滅する、恐れもあり、しかも中国政府は取り締まると決めたら、基準に適合しない状況が発覚次第、バシバシ事業者を呼びつけてビシビシ行政罰を食らわすことになるので、「やり過ぎ」になる危険性も十分にあります。
わかりやすく言えば、今回の細則が厳格に実施された場合、淫夢動画の類は中国のインターネットから消えることになるわけです(この例だと消えても困らない気はしますが)。