成長著しい中国の映画市場は、2020年にはコロナ禍で沈む他の主要国を尻目に市場規模世界第1位に躍り出ました。
ところが「ゼロコロナ」政策により、上海をはじめ各地でロックダウンが実施されていることは、日本でも多く報道されているところ。
「一夜にして解放前に戻った」「数字が低すぎる、最近の映画市場データは怖くてみれたものではない」と嘆くのは、中国映画評論学会会長の饒曙光氏。
今年3月の中国映画興行収入総額は、月間9.1億元(約170億円)と2013年以来の最低記録(コロナ直撃の2020年日本の年間興行収入総額は1432億円)を叩き出し、第1四半期の興行収入総額でも2016年の水準まで落ち込みました。
「コロナ禍」(というかゼロコロナ政策)による中国のコンテンツ産業への影響について詳報する、中国「連銭Insight」の記事を元にお伝えします。
映画業界は上場企業の大半が赤字
「光線電媒」「万達電影」など上場映画会社の2022年第1四半期(以下Q1)決算短信によると、「伝統映画会社」(中国ではIT大手がコンテンツ産業に参入しているので、IT以前の企業を「従来型」といった意味で用いる「伝統」と区別)は大半が赤字となり、大手がこうならば中小は言うまでもない惨状とのこと。
「連銭Insight」では「万達電影」、「光線伝媒」、「中国電影」、「横店影視」、「上海電影」、「華誼兄弟」、「金逸影視」、「ST北文」以上8社を抽出し、この決算短信を分析したところ、中国電影が比較的平穏な経営状況なほかは、いずれも純利益が暴落しているといいます。
万達電影、光線伝媒、中国電影と横店影視はなんとか黒字を保ったものの、映画産業全体の収益縮小を覆い隠すことはできませんでした。
前出8社のQ1純利益総額は1.16億元にとどまりましたが、前年同期は12.88の純利益を出しており、ST北文が赤字を計上したほかはいずれも黒字となっていましたが、今年は「コロナ禍」の影響が各社赤字の原因となっています。今年の1、2月は正月の影響でそう悪くない数字を出していたものの、3月から大都市で映画館が半休業状態になったため、興行収入が明らかに暴落。つまり、Q1決算短信の数字は氷山の一角に過ぎず、コロナ禍の影響がモロに出るのはQ2になるわけです。
ショッピングモールも手広く展開する超大手不動産デベロッパー、万達集団傘下の万達電影のQ1営業収入は34.61億元で前年同期比16.01%、純利益4499万元は同91.42%元。主な原因はコロナ禍による映画館の営業停止。Q1は万達電影の映画館400館が営業を停止しました。また、コロナ禍の影響で上映延期が相次ぎ、上映計画にも不確定性があることも、今年の業績に暗い影を落としています。
「コロナ禍」への対応
3月に「コロナ禍」が深刻になってからは、北京上海の映画市場は「爆心地」となっており、その他の購買力が高い大都市も大きな影響を受けています。清明節(4月初旬の連休)、五一(5月のメーデー大型連休)も惨憺たる数字となっているようです。
映画業界では2年間の「コロナ禍」を経て、観衆の映画鑑賞習慣が大きな変化をみせた「ポストコロナ」時代を見据え、経営モデルを刷新しています。
多くの大手映画会社ではドラマなど非映画業務を拡大。政府機関の統計によると、コロナ禍の影響を受けた2020年の有線テレビとIPTV(中国ではテレビはアンテナを立てて受信するものではなく、有線かインターネットにつなぐもの)の視聴率は40.1%増となり、一日あたりの平均テレビ視聴時間は7時間となりました。
よって、2020年4月、これまで映画を主要業務としてきた光線伝媒もテレビドラマに進出し、「山河枕」「君生我已老」「她的小梨涡」など、一気に14本のドラマをリリース。
テレビドラマ市場への展開は、映画会社にとどまりません。映画業界の上流工程に位置する制作会社は投資をしない、プロジェクト中止といった選択肢がありますが、配給会社、映画館は受動的立ち位置なところ、これらもテレビドラマ制作に乗り出しています。
横店影視、万達電影といった映画館運営会社もテレビドラマ業務に参入。さらに、映画館を屋内バスケットボールコートやマーダーミステリーゲーム店に改造したりと、涙ぐましい努力をしているとのこと。
生き残りのためライバルと「共存」
これまで競争を繰り広げていた映画会社ですが、業界全体の危機を前にして生き残りのため手を取り合う場面も出現しているようです。
近年、大作映画の制作は数十社が共同で配給しており、《长津湖》は16社、《你好,李焕英》27社、《我和我的父辈》は36社といった具合。従来、配給会社は1社か多くても3社くらいだったところを、1作品でより多くの配給会社が暖を取り、生き残ろうとしている格好。
2021年通年では572本が上映されたものの、そのうち興行収入が1億元を突破したのは40本余りに過ぎず、数少ないヒット作が大手各社を支えたということ。
年内の好転は難しい?
映画業界関係者は、この先についてもかなり悲観的な様子。コロナ禍が始まったばかりの2020年よりも悲惨なことになるという予想もあります。
「コロナ禍が始まったころは庶民の財布にもまだ余裕があり、抑え込めた後、映画ファンにもそれまでの分もあわせて消費する能力があったが、昨年下半期から各業界でリストラの嵐が吹いており、映画業界の主要購買層である都市ホワイトカラーの収入が明らかに落ち込んでいると同時に、鑑賞券の価格が上がり続けている。今年の映画市場は2020年よりも楽観できない」「業界各社は市場の風向きを見て、コロナ禍が落ち着いてから動くということになろうが、転機はもしかすると10月の国慶節か11月になるかもしれない」と、年内にどうにかなることを祈るしかない状況のようです。
まとめ
「ゼロコロナ」を掲げ、ロックアウトや映画館の営業停止を続ける中国ですが、映画業界からはもう限界との叫び声が上がっているようですね。「コロナ禍」というよりも「ゼロコロナ禍」なんじゃないかなあと思ってしまいます。
それにしても、昨年興行収入1億元(19億円)突破が40数本しかなかったという表現には、市場規模が違うからといえばそりゃそうなのですが、邦画は20本程度でしかもアニメばかりだったなと、少し苦笑。