
Samsung SDIがかつて試みた2万mAh級のシリコンカーボン電池。しかし、およそ960回の充放電で耐久試験を落選したようだと伝えられています。
2026年3月9日にX上で共有された内部テスト文書から読み解けるのは、容量、厚み、熱、寿命、安全性が、同じ筐体の中でせめぎ合う開発現場の葛藤です。
今回の文書で中心に据えられているのは、1万2000mAhの「SDI-DC12K-SiC-V2」と、1万8000mAhの「SDI-TC18K-SiC」の2モデル。2万mAhは継続中の主軸ではなく、失敗した大型試作の記録にとどまっています。
このため、Samsung SDIが現在取り組んでいるのは、1万2000mAhと1万8000mAhという現実的なラインです。
1万2000mAhモデルは、6800mAhと5200mAhのデュアルセル構成を採用しています。セル厚はそれぞれ4.7mmと3.2mmで、電池スタック全体を9.3mm未満に収めることが目標でした。
ところが、7個の試験サンプル中2個がこの目標を超えたとのこと。文書上では4GとWi-Fi接続時に20〜25時間の画面点灯を見込んでいますが、あくまで想定値。派手なのは容量の数字ですが、開発陣を悩ませているのは、むしろ厚みのばらつきです。
1万8000mAhモデルはさらに攻めた仕様です。6699mAh、6000mAh、5257mAhのトリプルセル構成で、目標スタック厚は12.3mm。
Samsung SDI is testing 12K, 18K mAh Si/C cells. The 20K failed at 960 cycles. Race is on. 👀
Full PDF available, Samsung tracking system didn't work much. Anyways it's not free. pic.twitter.com/D8NDy4weNw
— Schrödinger (@phonefuturist) March 9, 2026
しかしセル間の熱インターフェース材を挟むと、試験サンプルは約12.8mmに達したとされます。容量を積み増せば、放熱のための材料も増え、薄型化の余地が削られていく。まさに古典的なトレードオフに直面しています。報道では1万2000mAhと1万8000mAhの試験計画は約1500サイクルを目標にしているともされ、寿命面でも高いハードルが課されているようです。
「熱インターフェース材」とは、電池セルの間に挟む放熱シートのようなもの。セル同士が密着すると熱がこもって劣化や発火のリスクが高まるため、熱を効率よく逃がす素材を間に入れます。要するに「電池の断熱材兼放熱材」で、これが厚みを増す原因になっているわけです。
Samsungがシリコンカーボン電池にここまでこだわる理由は明快です。シリコン系負極は理論比容量で黒鉛の約10倍とされ、電池のエネルギー密度を大幅に引き上げる可能性を秘めています。ただし、充放電に伴う体積変化が最大約300%に達し、電極構造の破壊や急速な容量低下を招きやすいことも、学術論文で繰り返し指摘されています。大容量への期待と、膨張・劣化という厄介な代償が、この技術には最初からつきまとっているのです。
Galaxy S26 Ultraにこの技術が載らなかったのも、そう考えれば自然でしょう。Galaxy S26 Ultraは従来どおり5000mAhバッテリーを搭載しています。同社幹部も、シリコンカーボン電池は開発中だが、厳しい社内試験を通過し、顧客体験を意味ある形で改善できると判断した段階で初めて採用すると説明しており、現時点での争点は「SamsungがSi-Cをやるかどうか」ではなく、「いつ量産の基準を超えられるか」です。
Samsung SDIのシリコンカーボン電池が市場を変えまでには、地道な工学の積み重ねが必要となりそうです。




















