MNP優遇を許すな!
そんな気持ちはよくわかります。既存顧客が冷遇され、MNPは異様に優遇されチヤホヤされている、そんな状況に痺れを切らした通信事業者があらわれました。
日本通信株式会社(以下、「当社」という)は、携帯キャリアの過度なMNPインセンティブに対する公開抗議として、当社が提供する音声付きSIMサービスの全てについて、1年間の最低利用期間を設定しましたので、お知らせいたします。
携帯キャリアは、事業者間競争が激化する中、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)による転入に対して、キャリアショップ等と連携して1回線あたり3万円から7万円程度のキャッシュバックを支払っています。一方、当社は、音声付きSIMサービスの中に、最低利用期間がないものを設けています。
ところが、この状況を利用することにより、最低利用期間がない当社のSIMを申し込み、直後にMNPで携帯キャリアに移動し、それを即座に解約することで、1回線あたり数万円のキャッシュを手に入れることができてしまいます。
当社としては、最低利用期間の定めのないSIMについても、ルールに則った契約事務手数料、通信料、及びMNP手続き手数料を頂戴しているため、短期間でのMNPによる転出があっても、経営的には問題ありません。
しかしながら、当社は、通信業界の健全な発展に貢献するためにMVNO事業モデルを実現し、この事業モデルによって今後の成長戦略を推進していく企業として、本件のような通信業界の問題についても、適切に問題提起し、解決を訴えてまいります。
他社へのMNP(=番号そのまま乗り換え)で、端末代金の優遇や商品券などのキャッシュバックが他社で行われており、こうした状況を是正するために1年未満の解約は10,500円の違約金を取る、というのがb-mobileを提供する日本通信の言い分です。
確かに、MNPをポンポンされないようにするには、解除料金を設けてしまえ、という主張は、一見正しいようにも見えます。
さて、それと同じ事を行ったのがdocomoとKDDIですね。MNP制度が導入された2006年の翌年、二社は新規を長期契約者と同等の値段に優遇し、そのかわり、新規契約者に9975円の契約解除料金を設定しました。
さて、この後の携帯業界はどうなったでしょうか?
他社から顧客を奪うための競争が始まったということが、各社とも、顧客を奪う立場であるとともに、奪われる立場でもあることもより鮮明にしました。
解除料金を設定して釣った魚を逃がさないよう、解除料金で縛り付けていますが、他社も同じ事をやっています。SoftBankも追従して解除料金を設定しました。すると、その解除料金を上回るだけの餌を、新しく釣ろうとする魚にあげなければなりません。よくケータイショップでやっている「解除料金負担します!」とは、そういうことです。
解除料金に加えて、MNP転出手数料、新規事務手数料もかかりますし、キャリアメールアドレスを変えて周知する手間もありますから、端末代からの値引きやキャッシュバックは、少なからずあっても当然と言えます。
そう、新規顧客を得るために、餌をやる。得た顧客を、餌をやらずに閉じ込める。閉じ込められた客を奪い返すために、もっといい餌をあげる…。こうした負のスパイラルが、今の携帯業界の異常さを作り上げているのではないでしょうか?
こうした競争を考えると、日本通信が今回やった10500円の解除料金を取るというのは、効果があるとは思えません。単純に、それを上回る特典を付けてしまえ、あるいは、うちも違約金を上げよう、と考えるだけです。もちろん簡単にそうしたことを各社が簡単に行うとは思えませんが、手を変え品を変えて安売りせざるを得ない事情が携帯業界の構造にはあるのは確かです。
ただ、日本通信は単純に土管屋です。だがそれが美しい。通信機器は必須ではなく、SIMカードさえあればいい。通信機器とインフラを切断できないキャリアの抱えるジレンマを、とっくに断ち切っているのが日本通信です。その存在自体が孤高で、高貴でした。あえて俗世のMNP合戦の消耗戦に異議を唱える必要性も感じません。MNPの踏台として利用されている背景からSBやauが足並み揃えてプリペイドサービスを改悪した直後であり、まさに改悪への追従です。是正するために行動を起こしたなんて、ちゃんちゃらおかしいとも言えます。
正直、個人的には、みんな、どんどんMNPすれば?と思います。
大体、端末代金の値引きやキャッシュバックが多少でもみんながどんどんMNPしてるのなら、そんなに高額の不平等な差にはなりませんよ。新しい機種に安く変更できる、商品券がもらえる、auやdocomoなら毎月の割引も増えます。お得がいっぱいです。ならMNPすればいいじゃないですか。
しかし大多数の顧客は、転出にかかる手数料や他社のプランを知る時間、キャリアメールを変える程度の手間を惜しんでまで、新しくて安い機種と多くの特典を得ようとは、考えないのです。その怠慢が、MNPをしている人との差です。面倒くさい、今のキャリアでいいや、そう思っている人が「不平等だ!」と叫ぶのは、まだ早いと思います。
さて、筆者は改悪される直前のSBのプリペイドサービスを本日契約してまいりました。docomoのSIMロック解除済みXperiaを持ち込んで契約をしようとしたところ、ソフトバンクショップでエラーが出ました。これが現実です。
他国では端末と通信をそれぞれ選ぶ自由が当たり前の国が多数ですし、中にはSIMフリーが義務化された国もあります。にもかかわらず、日本ではそれができません。口先ではSIMフリーと嘯いても、各社それを受け入れるプランも体制も、ろくに整ってはいないのです。SIMロック解除できても、気軽に選べるプランとSIMカードが、docomoやSoftBankには無いのです。
好きな時にプランを選んで、SIMを買って、好きな端末を組み合わせて、いつでも使えて、いつでも解約できて、自由なスタイルで利用できる…あれ、これって日本通信の姿じゃないですか?昨日までの。