漫画の「Kindle化」に隠された秘話:鈴木みそ「ナナのリテラシー」が面白い!

 電子書籍で本を一冊おすすめして欲しいと高橋くんに言われたので、面白い漫画を紹介します。

 せっかく電子書籍を推薦する以上、やはり鈴木みそ先生の著作を避けて通ることはできませんでした。登場人物への感情移入に一癖あると感じた佳作「限界集落温泉」、画力やタッチに時間の流れを感じてしまうものの内容は今見ても色褪せない「銭」と迷ったのですが、より一般層にもわかりやすく、読みやすい「ナナのリテラシー」をおすすめします。

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 本作は主人公の女子高生が、職場体験という機会を通じ、天才ITコンサルタントのもとでビジネスをするというもの。作品内でキャラクターたちがビジネスやお金儲けを試行錯誤するという点は、作者の鈴木みそ先生の他の作品、前に挙げた「銭」や「限界集落温泉」と共通するスタイルであり、鈴木みそワールドを存分に味わえます。

 それでいて、本作第1巻におけるコンサル対象は、その名もズバリ、売れない漫画家「鈴木みそ吉」。この売れない漫画家をいかにコンサルするかが描かれていきます。漫画家は格差が激しくなっているのはなぜか?その構造を読み解き、漫画家は出版社の奴隷であるとし、出版社から独立し、自由を手に入れると決意します。そこで選んだのが「電子書籍」。これまで売れないとされてきた電子書籍に、出版社を捨ててまで賭ける価値とは?今までに描いた漫画の権利問題、出版社との取り分、業界のあるべき構造などなど、これらは全て鈴木みそ先生自身の体験に基づき、虚実交えて物語が展開されます。

 自分は「こち亀」が好きですが、よく主人公の両津勘吉が素っ頓狂なお金儲けをしていて、いいところまで行くものの、必ず一文無しになるというオチがつく、様式美のような構成が読んでいて安心できるのですが、「両さんは、本当ならこのままもっと稼げそうだな」とか、「これだけ両さんに作中で金儲けさせる方法を思いつくんだから、秋本治先生めちゃくちゃ商才あるよな」とか、そういう野暮な感想が心の片隅に浮かびます。もしも、そういう私と似たようなことを考えたことのある人なら、鈴木みそ先生の作品は惹かれるのではと思います。

 作中で「鈴木みそ吉」がとった行動は、鈴木みそ先生が実際に行ったものも多く含まれているようで、どちらかというと「事実を元にしたフィクション」でしょうか。電子書籍化に関して、Tipsや収益報告などは、作中同様、鈴木みそ先生がブログで報告しているので、興味のある方はこちらも読んでみるといいかもしれません。

 つまり本作を読んでおくことで、Kindleの鈴木みそ先生の作品を買うとき、なるほど、こんな経緯でこの本はKindleストアに並んでいて、こんなバックグラウンドがあって、価格設定にも工夫があるなあ、と納得することができます。同じ作者の諸作品に触れる上でも、Kindleに並んでいる他作品を読む上でも、「ナナのリテラシー」を読んでおくだけで、ちょっと違った視点から、有意義な読書体験ができるのでは、と思います。

 ちなみにこの書評は、デジほん22回目に掲載予定でした。単独記事にしたのは、書いた後で高橋くんに「長すぎる」「そもそもカドカワセールの対象ではない」と言われてしまったためです。残念。ただし記事執筆時点で、ナナのリテラシー第1巻の紙の本の価格が702円に設定されているのに対し、Kindle本の価格は43%オフで400円となっているので、十分お得に読むことができます。

ナナのリテラシー1
ナナのリテラシー1

 なお、鈴木みそ先生はよくゲーム系の雑誌でお仕事をされていた方です。ゲーム業界に詳しいと同時に、週刊ファミ通では「おとなのしくみ」という作品を連載し、ファミ通の人気コーナー「クロスレビュー」について問題点を指摘するなど、とても面白くて正義感もある方です。

 「ナナのリテラシー」第2巻では、昔ながらのゲームを愛するゲーム会社の社長と、ソーシャルゲームを作るプログラマーが激突します。ソーシャルゲームのいわゆる「ガチャ」に関しても、作中の登場人物の意見とはいえ、かなり踏み込んだ表現があり、読み応えがあります。長くゲーム業界に関わってきた鈴木みそ先生だからこそ描けるのだろうなと、妙にリアリティを持った第2巻のゲーム会社を見て思いました。「ナナのリテラシー」、今後も続きが楽しみです。

ナナのリテラシー2
ナナのリテラシー2

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