スマホで4.4mmバランス接続はヤバいwwww
鳴り物入りで究極の音楽再生デバイス「MOONDROP MIAD01」が登場しました。そこには抗えない魅力があります。
筆者は個人輸入しましたが、本機は日本語に対応、GMSにはデフォルトでは入っていませんが、OS設定→アプリ→Google設定という項目から有効化が可能となっています。
MIAD 01の魅力ですが、やはり「超高音質スマホ」「スマホ的機動性を備えたDAP」という人類の悲願を達成したことです。
現代の音楽再生の主役はインターネット・アプリを利用したストリーミング再生です。これに対応していないようでは話になりません。だから昨今のDAPはAndroid OSを搭載しています。そうでないものは、スマートフォンやノートPC等に接続して、それらのデバイスで再生する音楽の音質を良くするという形で共存共栄を図っているものの人気が高いです。
ではなぜ「超高音質スマホ」「スマホ的機動性を備えたDAP」がほとんど存在しないかと言えば、多機能であるがゆえにスマホはノイズ源も備えているからです。SoCはその最たる例です。あらゆる部品を内包するのがここ10年のスマホのトレンドです。特に厄介な通信モジュールまで内包しているのですから始末に終えません。高音質でありながらも、その究極の合体を求めるという狭いニッチな市場しかないのに、SoC選定からノイズ対策までコストがかかります。それが最大の理由です。
Walkmanに至っては、通信モジュール非搭載のSoCの有無に全てをかけています。初代NW-A100シリーズは筆者も買いましたが、省電力性を一切考慮しない産業用のチップを使うことで、ノイズのない高音質を目指したものの、電池消費は欠陥品レベルで全く常用に耐えませんでした。ちなみにNW-A300はようやく通信モジュールのないまともなSoCを搭載することで、そこそこ使えるようになっており、こちらは初代とは違って買ってみて悪くはありませんでした。
そうした難しい事情があるなか、実は数少ない偉大な先例があります。それがONKYOのGRANBEATです。これは完全に通話もできるAndroidスマホとDAPの、究極のキメラでした。そんな良いものがあるならそれを使えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、これが如何せん古いです。なんと2016年の機種なので、OSがあまりにも化石すぎます。Androidアプリの開発者は当然、動作要件を定め、足切りを行います。低い性能だけではなく、OSバージョンの問題から運用に支障が出てきます。音楽を聞くにもアプリ、サブスクの定額配信アプリが使えないと厳しいです。
そうして探求者たち、難民たちは、最新機種を求めます。そこで颯爽と登場したのがMOONDROP MIAD01です。Android 13 OSを搭載し、4G/5Gも使えるスマートフォンです。SoCはDimensity 7050、12GB LPDDR4xメモリ、256GB UFS3.1ストレージを備えるなど現代的なスペックに。電池は5000mAhバッテリーで最大33W PD対応。画面はデカい6.7インチAMOLEDディスプレイ(2460×1080)なので、音楽ストリーミングアプリの動作も快適です。まさにこれを待っていたのです。
まず悪い話をしておきます。3.5mmイヤホンジャックはタッチパネル操作や楽曲切り替えなど、様々な場面で頻繁にノイズが入ります。ノイズ排除がこのような機器の重要課題なので、良さを相殺してしまいかねない欠点だと思います。また、スピーカー音質も激安機種並で使い物になりません。
しかし、オーディオ愛好家にとってはどうでもいい点です。なぜなら4.4mmバランス接続を使うからです。実際、筆者はスマートフォンにもUSB DACを繋いで4.4mmバランス接続を用いているぐらいです。
さて、その肝心の4.4mm接続はというと……はい、優勝です。解像感も申し分ありません。4.4mmイヤホンジャックに関しては存在意義ともいえるノイズ対策を含む音響設計は、しっかりなされており、出音も良いです。Cirrus Logic MasterHiFi(CS43130系統)のデュアルDACチップ、良いね。
本機の存在意義に根本から懐疑的な意見もあるに違いありません。かくいう筆者もそれは理解します。スマホにUSB-DACを挿せばそれで十分だという立場です。どうせMOONDROPの1万円のDAC程度の実力しかないだろうから、と事前に言われていたのですから尚更です。
しかし、必ずしもそうとは言えません。スマホの電池を大きく消費しますし、スマホがかさばることになります。ズボンのポケットは2つあるのですから、片方に薄いスマホ、もう片方に薄いMIAD01の方がスッキリするでしょう。
そして何より音が良いのです。1万円どころか少なくとも2, 3万円のDAC以上の実力はあると感じます。あえて言うならMOONDROPらしく中高音域のクリアさ重視かもしれませんが、低音域に過不足はありません。
そう、筆者は低域が大好き。じゃあこの機器は微妙?というとそんなことはありません。本機はおそらく相応の駆動力を持っています。
たとえば鳴らしにくいとされている平面磁界駆動型イヤホンが筆者の大好物。「低音がショボいんだよね」と言われて、実際に試聴してみ衝撃を受けてそのまま買ってしまった「MADOO Typ711」は、MIAD01で聴いてみると、キレのある低音、どっしり厚みのある重低音で音場広く雄大な演奏がたまりません。同様に駆動力を要するとされている「TinHiFi P2Plus Commemorative Edition」も鳴らしてくれて、けっこうなパワーを持っていることが伺えます。
オーディオにとって重要なのは電気です。スマホからDACへの電源供給よりも、内部電源で内部DACで完結させる方がロスも少なく安定させられるのは要因として大きいのではないでしょうか。コスパの悪そうなわずか399ドルのニッチ製品で、部品から1万円程度のDACでショボいだろという事前評判を覆しつつ、健闘してここまでの音が出せることの説明がつきます。
また、駆動力に見合うだけの6層基板構成による徹底的なシールド設計、独立LDO電源モジュールといった音響設計へのこだわりも見逃せません。このようにほとんどの力を4.4mmの高音質化に費やした結果が、他の部分のショボさです。3.5mmアンバランス接続、スピーカー、ハプティクス、外観素材……あらゆる部分からチープさをひしひしと感じます。
しかしそんな中でも、独創的なデザインは唯一無二。画面は地味に120Hz駆動対応。現代的SoCによってApple Musicの動作も(4.4mm接続は)問題なし。モバイルネットワーク対応なのでテザリングに頼らずとも音楽を楽しめる……こだわるべきを徹底的にこだわり、そうでない部分では徹底的に手を抜いてショボくすることによって、本機は高額でない価格帯で、素晴らしい製品に仕上がっています。
筆者はM15Sを常用していますが、高音質以前に、外で使うには大きすぎてズボンのポケットへの収まりも悪いです。
このため、iPhone+USB DACの組み合わせで過ごしていましたが、iPhoneに装着しているClicksキーボードケースがUSB通信を通してくれないようなので、最近はMIAD01を毎日使うようになっています。普段3.5mm接続をあまり利用しない筆者にとっては、本機はなかなか満足度の高い、愛せる製品です。
バランス接続の存在すらも知らないユーザーや、メイン機となるスマホを探しているユーザーは、本機に手を出すべきではありません。「他の優れたスマートフォンをメイン機にしていて、4.4mmバランス接続を普段から利用し、音楽ストリーミングアプリを体験の中心とする、筆者と同じのようなオーディオ愛好家」「これを機に4.4mmバランス接続に挑戦したい」という人にとっては推奨できます。
この価格で実現されるスマホの音質としては非常に健闘した音を出し、メインスマホの電池を大きく消耗しない、素敵な第二の相棒となってくれるはずです。技適を取得した日本版の正式発売に期待したいところです。